チッペンデール好き必見! ストウヘッド Stourhead

イングランド南西部を流れるストウ川(River Stour)のほとりに広がるストウヘッド(Stourhead)は、数多くの美術品で飾られている邸宅をとり囲むように森や湖、橋や数多くの寺院などが1,072ヘクタールもの敷地に点在しています。この広大な庭園はヘンリー・ホーレ2世(Henry Hoare II)によって、1741年から1780年にかけて作られました。

大きな湖や小川などが配置されているイタリア風の庭園となっていますが、ストウヘッドにはウォーキングコースも整備されており、鬱蒼とした森を歩いていると木々の合間にパーゴラや寺院などが見え隠れするため、思いがけない景色に出会うことができます。

個人の趣味が多分に反映された小さな寺院や塔などは、まるでスケールの大きなミニチュア庭園のようです。「お金持ちのすることはスケールが違うなぁ」と感心しつつ、この丘を登ったところにはどんな景色が広がているんだろう?という小さな好奇心が、歩を進める原動力になりました。

 

 

18世紀から続く銀行家 ホーレ家の邸宅

ストウトン一族(Stourton Family)が13世紀の初めから500年近くも住んでいましたが、1714年にサー・トーマス・メーア(Sir Thomas Meres)がストウヘッドを購入しました。しかし、その3年後には裕福な銀行家であるヘンリー・ホーレ(Henry Hoare)に売却しています。それ以降、約200年にわたりホーレ家の邸宅として利用されていました。

18世紀には既に巨万の富を築いていたホーレ家ですが、このホーレ家の銀行は現代もまだ息づいており、C. Hoare & Co.としてロンドンのストランドに本社を構えています。1672年創業の C. Hoare & Co.はイギリスで最も歴史のあるプライベート・バンクで、王族や貴族など高額所得者のみと取引をする銀行のため、私たち一般人が口座をもつことはできません。

1714年にストウヘッドを購入したヘンリー・ホーレは、それまでの古い邸宅を取り壊し、コレン・キャンベル(Colen Campbell)に設計を依頼してパラディウム様式の邸宅に建て替えました。

その後200年にわたりホーレ家がストウヘッドに居住し、銀行業で得た巨万の富をもとにさまざまな美術品や貴重な書物を収集しました。

また、このパラディウム様式の邸宅は、内装や家具のすべてをチッペンデールが手掛けたことでも有名です。

 

 

チッペンデール親子が手掛けたサロン

チッペンデールは、18世紀にイギリスで一世を風靡した家具デザイナーです。

紛らわしいことに、いわゆる『チッペンデール』と言うとトマス・チッペンデール(Thomas Chippendale)を指すことが多いのですが、彼の11番目の息子であるトマス・チッペンデール(父と同名)も父の跡を継いで家具職人になりました。そのため、息子のほうを指すときには『チッペンデール・ザ・ヤンガー(Chippendale, The Younger)』と称されることが多いようです。

シノワーズ(中国風)とロココを融和させた独特のデザインが特徴で、猫脚の椅子、鷹の爪が球を掴んだモチーフなどが多様されていますが、彼らが実際に作成した家具は現存しているものが非常に少なく、世に『チッペンデール』として出回っているアンティーク家具の殆どがチッペンデールのスタイルを真似て当時の職人が作った、いわゆる『チッペンデール様式』のものです。

家具職人として有名なチッペンデールが内装を手掛けた部屋が現存していることも非常に珍しいのですが、実際にチッペンデール親子が作った家具が多数残っていることでも、ストウヘッドの美術的価値は計り知れません。

たとえば、こちらのサロンはチッペンデール親子が内装を手掛け、その内装に合う家具をデザインして配置しました。

写真では分からないと思いますが、天井の縁飾りの模様と、家具のデザインが同じモチーフで作られているのです。つまり、この家具はこの部屋でしか本当の美しさを発揮しないというわけです。そう考えると、この屋敷の希少価値がお分かりになるかと思います。

実は、イギリス各地にあるナショナルトラストは寄贈されたものが多いのですが、寄贈するときは大抵『家だけ』で内装や家具などは寄贈されないことが多いのです。

その理由は遺産相続のタイミングで、つまりオーナーが亡くなるときに遺言によってナショナルトラストに寄贈されることが多く、屋敷以外のお金になりそうなものは残った子孫たちの手によって競売にかけられてしまうことが多いからです。

 

サロンだけでなく、主だった部屋にはチッペンデール親子が作った家具が品よく並んでいます。

 

屋敷の内装と家具を任されたチッペンデール親子は、屋敷の一角にあるコテージで寝泊まりしながら製作に励みました。

こちらがそのコテージで、現在も住宅として利用されています。

こんなところに住めたら、どんなに素敵でしょうね。ホリデーハウスとして一般人に貸し出してくれたら、絶対に泊りに行くのになぁ・・・

 

イギリスで『アテネの学堂』が見られる?

貴重な蔵書が収められている図書室は、ヘンリー・ホーア2世の息子であるリチャード・コルト・ホーレ(Richard Colt Hoare)によって、1783年に増築されました。

当時の裕福層は、若い頃に『グランド・ツアー』と称してヨーロッパ各地を周遊することが流行っていました。

リチャード・コルト・ホーレもご多聞にもれずグランド・ツアーを楽しみ、ローマのバチカン美術館で見たラファエロ作の『アテネの学堂』に感銘を受け、図書室のルネット(壁面の半円形の部分)に『アテネの学堂』の縮小版を作らせました。

これはステンドグラスではなく、薄いガラスにエナメルで描かれており、その上にさらにガラスを重ねたものです。1803年にフランシス・エギントン(Francis Eginto)によって作成されました。

本物の『アテネの学堂』をご存じの方なら、この『アテネの学堂』を見たら思わず笑みが漏れることでしょう。かくいう私も、見た途端に吹き出してしまいました。

中央に佇むのはラファエロの自画像、中央やや右寄りで頬杖をついているのがミケランジェロを模したものだということは見て取れますが、スケールも小さく、描かれている人物も厳選されている、まさに『良いとこ取り』の『アテネの学堂』なのです。

お庭に点在している個人的趣味満載な寺院といい、お金に任せて好きなものだけを身近に集めているようすを見て、まるで少年が『ひみつ基地』を作ってそこに宝物を集めて楽しんでいるような、そんな印象を受けました。なんだか人間らしくて、とても素敵です。

 

ナショナルトラストに寄贈

200年にわたりホーレ家が居住していたストウヘッドは、1946年にサー・ヘンリー・ヒュー・アーサー・ホーレ(Sir Henry Hugh Arthur Hoare)によって、ナショナルトラストに寄贈されました。そのおかげで、今私たちがこうして楽しめるわけですね!

 

Stourhead(National Trust)

URL https://www.nationaltrust.org.uk/stourhead

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